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大阪高等裁判所 平成3年(ラ)145号 決定

抗告人

新京都信販株式会社

右代表者代表取締役

松本睦己

右代理人弁護士

杉島元

杉島勇

相手方

池内隆

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消す。」との裁判を求めるというのであり、抗告の理由は、別紙「抗告の理由」に記載のとおりである。

しかしながら、本件抗告は、これを認めることができない。その理由は、次のとおりである。

1 抵当権は、設定者がその占有を移転することなく債権の担保に供した不動産につき、他の債権者に優先して自己の債権の弁済を受ける担保権であり、その目的不動産を占有する権原を権利の内容として包含するものではなく、抵当権の目的である不動産の占有は、その所有者の意思にまかされているものである。

したがって、抵当権者は、抵当権の設定された目的不動産の占有について、その所有者が自ら占有し、又は、第三者に賃貸するなどして、用益権を設定し、第三者に対して、抵当権の目的財産を直接占有させている場合のみならず、第三者がなんらの権原なくして、抵当権の目的とされた不動産を占有している場合においても、抵当権者は、その権利の性質上、目的不動産の占有関係について、干渉しうる立場にはなく、第三者が、目的不動産を権原に基づき占有し、又は、不法に占有しているというだけでは、抵当権が侵害されている状態にあるとはいえないものと解するのが相当である(最高裁判所平成三年三月二二日第二小法廷判決・裁判所時報一〇四七号一頁参照)。

このように、抵当権に内在する権利の性質に照らし、抵当権者である抗告人は、物の引渡し又は明渡しの請求権を保全するための処分として認められる、抵当不動産の占有移転禁止の仮処分を求めることはできないものというべきである。

2  さらに、一件記録によれば、相手方が、伏見信用金庫から融資を受けるに際し、両者の間に締結された抵当権設定金銭消費貸借証書(〈証拠〉)にかかる契約条項の五条二項には、「抵当権設定者(相手方)は、あらかじめ貴金庫の書面による承諾がなければ抵当物件の現状の変更および担保価値の減少をきたす行為または譲渡、占有の移転、担保権その他の物権もしくは賃借権の設定をしません。」との定めがあり、したがって相手方と伏見信用金庫(東寺支店)との間には、本件抵当不動産の占有移転禁止の特約があるとの疎明があるといわなければならないが、前記のとおり、右抵当権者が抵当不動産の占有関係について、干渉し得る立場にはないことに徴すると、右占有移転禁止の特約は、たかだか、抵当権設定者の抵当権者に対する債権契約上の不作為義務を約定したにすぎないものであって、右不履行により抵当権者が損害を被った場合、その賠償義務を負担する責めを負うことがあるは格別、抵当権者である抗告人において、右占有移転を禁止する債権的権利を保全するために占有移転禁止の仮処分を求めることは、権利の性質上できないものというべく、右権利を弁済者の代位によって取得した抗告人についてもこれを別異に解するべき理由はない。

3  その他、一件記録を精査しても、原決定を違法とすべき理由はこれを見いだすことができない。

二そうだとすれば、原決定は相当であって、本件即時抗告は理由がないからこれを棄却することとし、抗告費用の負担につき民訴法八九条に従い、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官後藤勇 裁判官東條敬 裁判官小原卓雄)

別紙〈省略〉

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